それでは次からは、漢方薬のもととなっている「漢方医学」について紹介していきましょう。ただし、ここからは漢方医学特有の考え方をもととしており、少々、難しいところがあるかと思いますが、「漢方ってこういう医学なんだ」と概略だけでも汲み取って頂ければと思います。
西洋医学では、まず検査によって、臓器、組織、細胞単位、さらには分子レベルで異常を調べ、診断結果によって、患者さんの「病名」が決定されます。病名が決まると薬が決まり、同じ病名の患者さんには同じ作用を持つ薬が処方されます。
ところが、漢方医学は、「病名」ではなく、患者さんの「証」(しょう)に従って薬を決める「随証治療」(ずいしょうちりょう)というのを原則としています。
証とは、一言でいえば患者さんの体のどこに異常や弱点があるかを、「陰陽」、「虚実」、 「表裏」、「気血水」などの漢方医学独特の観点から多角的にみてまとめた診断結果です。
「陰陽」とは、患者さんが暑がっているか寒がっているか、患部の赤みが強いか弱いかなどで病期(ステージ)や病型を分けたもので、「陰病」「陽病」などと表現します。例えば、インフルエンザで高熱を出してふうふういっているようなときは陽病、お年寄りが肺炎を起こして熱もさほどなく、ぐったりしているようなときは陰病とされます。
「虚実」とは、患者さんの体力や病邪の強さを、体にあらわれたサインから把握し たもので、「虚証」「実証」と表現されます。「虚証」と「実証」の特徴は次の図表の通りです。なお、太っている、やせている、体力がある、ないといったことだけでは、簡単に判断できません。その中間の人たち、普通の体型で、体力が強くも、弱くもない人たち、つまり、どちらともいえない人のことを「虚実間証」といいます。
項目 |
実証 |
虚証 |
| 体格 |
がっしり |
きゃしゃ |
| 体型 |
固太り |
やせ型または水太り |
| 栄養状態 |
良好で皮下脂肪が厚い |
不良で皮下脂肪が薄い |
| 活動性 |
疲れにくく積極的 |
疲れやすく消極的 |
| 皮膚 |
つやと張りがある |
乾いてたるんでいる |
| 筋肉 |
弾力がある |
弾力がない |
| 声 |
力強い |
か細い |
| 寝汗 |
かかない |
よくかく |
| 食事量 |
多い |
少ない |
| 過食 |
平気 |
すぐ満腹になる |
| 空腹 |
平気 |
耐えられない |
| 冷たいものの飲食 |
平気 |
胃腸の調子をくずしやすい |
| 食後の眠気・倦怠 |
ない |
ある |
| 便通 |
太くてかたい便 |
ウサギのふん状または軟便、下痢 |
| 便秘のとき |
不快になる |
平気 |
腹部の所見 |
| 腹力 |
腹壁が厚く弾力がある |
腹壁が薄く弾力がない |
| 胸脇苦満 |
強い |
弱い |
心窩部振水音
(しんかぶしんすいおん) |
ない |
ある |
| 腹部動悸 |
ない |
ある |
「表裏」とは、人体を輪切リにしたところを想像すると、体表部、体深部、その中間部に分けることができますが、病邪が体のとこまで深く入り込んだかで、症状はしばしば異なります。このことに注目したのが表裏で、体表にとどまるものを「表証」、 内部の胃腸まで及んだものを「裏証」、その中間を「半表半裏証」と呼んでい ます。